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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)3358号 判決 1988年3月03日

主文

一  被告の昭和六〇年九月二四日の株主総会における和田正一郎、堀恵一、牧野好男及び土屋義太郎を取締役に、西之宮惟晃を監査役に各選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

二  原告早水司、同佐野市郎、同酒井俊明が被告の取締役の地位を有すること及び原告早水由美子が被告の監査役の地位を有することをそれぞれ確認する。

三  原告早水司が被告の代表取締役の地位を有することを確認する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、電子機器の製造販売・輸出入等を事業目的とした資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、原告早水司(以下「原告早水」という。)及び原告佐野市郎(以下「原告佐野」という。)はいずれも被告の株主であり、原告酒井俊明(以下「原告酒井」という。)は被告の取締役、原告早水由美子(以下「原告由美子」という。)は被告の監査役である。

原告早水は、昭和五九年一一月一日に被告の全株式(発行済株式総数二万株)を有していた堀恵一から被告の株式一万二〇〇〇株を譲り受け、原告佐野は、右同日三〇〇〇株を譲り受けた。

2  被告は、主文第一項記載の株主総会において同項記載の決議がされたとして昭和六〇年九月三〇日その旨の役員変更登記手続をしている。

3  しかしながら、被告においては右株主総会を開催していない。

4  原告早水及び原告酒井は被告の昭和六〇年八月二四日の株主総会においてそれぞれ取締役に選任されて就任した者であり、原告由美子は右株主総会において監査役に選任されて就任した者であって、原告佐野は昭和六〇年一二月六日開催の株主総会において取締役に選任されて就任した者である。

5  原告早水は、被告の昭和六〇年八月二四日の取締役会において被告の代表取締役に選任されて就任した者である。

6  被告代表者らは、原告らの右地位を争っている。

よって、原告らは、被告に対して請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実の内、被告会社についての事実は認めるが、その余の事実は否認する。被告の代表者堀恵一の父親堀義久は、昭和五五年八月一日被告を設立し、被告の発行済株式の全部を有して被告の代表取締役の地位にあったが、昭和五八年八月一日死亡し、その子の堀恵一が被告の全株式を相続した。堀恵一は、原告早水及び原告佐野に対して、被告の株式を譲渡する意思を有していなかったが、堀恵一が被告の金銭を私用に使っているとの虚偽の事実を挙げて原告早水が堀恵一を脅迫したため、株式譲渡書及び譲渡承認請求書に押捺したのであって、堀恵一から原告早水及び原告佐野に対する株式の譲渡は堀恵一の真意に基づくものではなく、無効である。したがって、原告早水及び原告佐野は、被告の株主ではない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。被告の事業年度は、七月一日から翌年六月三〇日までであるところ、昭和六〇年九月当時登記簿上役員として記載されていた取締役細谷藤男、同和田正一郎、堀恵一、代表取締役堀恵一、監査役福島和夫は、いずれも被告の第三期(昭和五七年七月一日から昭和五八年六月三〇日まで)の事業年度の決算期に関して昭和五八年九月三〇日に開催された定時株主総会終結の時をもって任期満了により退任していたにもかかわらず、右役員の変更登記を失念したため、被告は第五期(昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日まで)の事業年度に関して昭和六〇年九月二四日開催された定時株主総会において取締役として堀恵一、和田正一郎、牧野好男、土屋義太郎を、監査役として西之宮惟晃を選任する旨の決議をし、また、右総会に引き続いて開催された取締役会において代表取締役として堀恵一を選任する旨の決議をしたのである。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。堀恵一は、同年八月二七日被告の代表取締役に就任し、被告は同年九月八日付けでその旨の変更登記手続をした。

6  同6の事実は認める。

三  抗弁

1  仮に堀恵一が原告早水及び原告佐野に対して昭和五九年一一月一日に被告の株式の譲渡をしたとしても、被告の株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあるところ、右譲渡については被告の取締役会はなんら承認をしていない。

2  被告の唯一の株主である堀恵一は、昭和六〇年九月二四日株主総会を開催し、主文第一項記載の各決議をしたのである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1に対して)

原告早水及び原告佐野は、昭和五九年一一月一日付けの書面で被告に対して堀恵一から原告早水及び原告佐野に対する株式譲渡について承認するよう請求し、被告は昭和五九年一一月一七日付けで右の承認をした。

六  再抗弁に対する認否

争う。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1の事実の内、被告が電子機器の製造販売・輸出入等を事業目的とした資本金一〇〇〇万円の株式会社であることは当事者間に争いがない。

二1  そこで、原告早水及び原告佐野の株式取得について判断するに、成立に争いのない甲第六号証の二、乙第八号証、原告早水本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認めることができる甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証の一、第七、第八号証の各一、二、被告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ、被告代表者尋問の結果の内、右認定の反する部分は原告早水本人尋問の結果に照らし、採用できない。

訴外堀義久は、もともとワイシャツの縫製業をしていたところ、甥に当たる原告早水の進言を容れて、昭和五五年八月一日資本金一〇〇〇万円を拠出して電子機器の製造販売等を目的とした被告会社を設立し、自ら代表取締役に就任するとともに、その息子である被告代表者堀恵一を取締役に就任させて、同人を専ら電子機器関係の技術者として育成しようとした。被告の設立時の取締役には、原告早水の紹介により花見修及び小野正征も参加したが、堀恵一及び原告早水らと意見が合わず、昭和五六年一〇月一四日ごろ辞任した。右辞任の後、当時第二精工舎に勤務していた被控訴人(原告)早水は、主に土曜、日曜に被告の事務所に出勤して、被告の業務を処理するとともに、堀恵一の指導に当たった。また、原告早水と同様の電子機器の技術を有する原告佐野も、原告早水の依頼を受けて、同人と同様に時折土曜、日曜に被告会社の事務所に出勤して被告の業務の手伝いをしていた。その当時、被告の全株式を有していた堀義久は、堀恵一に被告の経営の全般を任せることができる状況ではなかったので、原告早水に被告の将来の経営を委ねる旨の考えを原告早水に表明していた。

昭和五八年八月一日堀義久が死亡し、被告の全株式はその子堀恵一が相続により取得した。そして、堀恵一は、同年八月二七日に被告の代表取締役に就任し、同年九月八日にその旨の登記を了した。しかし、被告の主たる業務は原告早水及び原告佐野が担っていること及び堀義久の生前の意思の趣旨を考慮して、原告早水は、被告代表者堀恵一に対して、被告会社を一緒にやっていくならば被告の経営権及び株式を原告早水に譲渡すべきであること、それがいやであれば原告早水はその発明に係る権利を有したまま独立して別会社をつくる用意があることを告げて堀恵一の決断を促した。

昭和五九年一一月ごろ堀恵一は原告早水らと一緒に被告会社を経営していくこととし、原告早水の前記の申し出を容れて被告の発行済株式二万株の内、一万二〇〇〇株を原告早水に、三〇〇〇株を原告佐野にそれぞれ無償で譲渡することに同意した。そこで、原告早水は、それまで勤務していた第二精工舎を退職し、被告の運営に精力を注ぐこととした。

昭和六〇年八月二四日被告では第五回定時株主総会を開催し、堀恵一、原告早水及び原告佐野の前株主が出席した上、取締役に堀恵一、原告早水及び被控訴人酒井を、監査役に原告由美子を選任し、各役員はいずれも就任を承諾した。

2  右の事実によれば、被告の発行済の全株式(二万株)を有していた堀恵一は、昭和五九年一一月ごろ原告早水に対して一万二〇〇〇株を、原告佐野に対して三〇〇〇株を無償でそれぞれ譲渡したものと認めることができる。したがって、被告の株主は、昭和五九年一一月以降堀恵一(五〇〇〇株)、原告早水(一万二〇〇〇株)及び原告佐野(三〇〇〇株)の三名となったものということができる。

三  ここで、被告の抗弁1について判断するに、抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

四  ところで、被告の取締役会において右株式譲渡についての承認決議をしていたか否かについて(再抗弁)判断するに、前顕甲第五号証の一、二、第七号証の一、二に原告早水本人尋問の結果及び被告代表者尋問の結果を総合すると、被告代表者堀恵一は、原告早水らに対して株式の譲渡をした後、昭和六〇年八月二四日に被告の株主総会を開催し、右総会において原告早水及び原告佐野の議決権の行使を容認していること、右株主総会の後原告早水の要求に応じて右株式譲渡について被告名義の譲渡を承認する旨の昭和五九年一一月一七日付けの書面に押捺していることを認めることができる。

これらの事実によれば、被告代表者堀恵一は前記株主総会の開催前において原告早水及び原告佐野の株主権の行使を容認する意思を有していたことは明らかであり、当時の被告取締役(前顕各証拠によれば、昭和五六年当時被告の取締役は堀義久、堀恵一及び細谷藤男であったが、昭和五八年八月一日に堀義久が死亡したことに伴い、和田正一郎が同月二七日就任したことを認めることができる。その後昭和六〇年八月まで被告の取締役の変更の登記がされたことを認めるに足りる証拠はないから、堀恵一及び細谷藤男はすでに任期満了により退任し、いわゆる取締役の権利義務を有する者としての地位を有する者であったということができる。)においても同様の意思を有していたものと推認することができる。そうすると、被告の取締役会においては、前期株主総会の前において堀恵一から原告早水及び佐野への株式の譲渡について黙示の承認決議をしていたものと認めるのが相当であり、右の決議の意思は被告が早水及び原告佐野に対して昭和六〇年八月二四日の株主総会において議決権の行使を認めた際に、原告早水らに対して表示されていたものと認めるのが相当である。

したがって、右の趣旨で被告の再抗弁は理由がある。

五  請求原因2の事実については当事者間に争いがない。

六  そこで、右登記の原因となった昭和六〇年九月二四日の株主総会決議の存否(抗弁2)について判断するに、被告代表者尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証によれば、被告代理者堀恵一は、昭和六〇年九月二四日被告の全株式を有する株主であるとして定時株主総会を開催し、主文第一項記載の決議をしたことを認めることができる。しかしながら、前認定のとおり、昭和六〇年九月二四日当時には被告の発行済株式の内、一万五〇〇〇株は原告早水及び原告佐野に対して譲渡され、右の譲渡は被告に対抗できる状態にあったものと認めることができるから、被告代表者のみで開催した右株主総会は被告の発行済株式総数の四分の一の株式を有する株主のみで開催されたものにすぎず、右四分の一に相当する株式数のみでされた決議は法律上不存在であるというべきである。

したがって、抗弁2は理由がなく、被告の役員については、前認定のとおり昭和六〇年八月二四日の株主総会において選任され就任した者らが現在その地位を有していると認めることができる。

七  請求原因4の事実について判断するに、前記認定事実により明らかなように、原告早水及び原告酒井は昭和六〇年八月二四日の株主総会において取締役に選任され、また、原告由美子は右株主総会において監査役に選任されたということができる。前顕甲第四号証の一、二及び原告早水本人尋問の結果によれば、被告は昭和六〇年一二月六日臨時株主総会を開催し、取締役堀恵一を解任するとともに、原告佐野を新たに取締役に選任したことを認めることができ、被告代表者尋問の結果の内右認定に反する部分は前記各証拠に照らし、採用することができない。

そうすると、請求原因4の事実は全部これを認めることができる。

八  請求原因5の事実については、前顕甲第二号証の二及び原告早水本人尋問の結果により、これを認めることができ、被告代表者尋問の結果の内右認定に反する部分は、前記各証拠に照らして採用することができない。

九  請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

十  以上によれば、原告らの本件請求は全部理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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